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大分地方裁判所 昭和44年(ワ)496号 判決 1972年11月10日

原告 大平住宅株式会社

被告 山下二三夫 外二名

主文

1  被告山下は原告に対し金四九八万四、〇〇〇円およびこれに対する昭和四四年八月二九日より完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  被告笠置、同酒井は各自原告に対し金三六万八〇〇円およびこれに対する昭和四四年八月二七日より完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

3  原告その余の請求を棄却する。

4  訴訟費用は原告と被告山下との間に生じた分は同被告の、原告とその余の被告両名との間に生じた分はこれを五分し、その一を被告らの、その余を原告の負担とする。

5  主文第1、2項は仮りに執行することができる。

事実

第一、当事者の求めた裁判

一、請求の趣旨

被告らは、各自、原告に対し金四九八万四、〇〇〇円およびこれに対する本件訴状送達の翌日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告らの負担とする。

仮執行の宣言。

二、右に対する被告ら三名の答弁

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

第二、当事者の主張

一、請求原因

(一)  原告は被告山下二三夫を雇傭し、昭和四〇年五月一日より原告会社の福岡支店大分営業所の集金係を命じたが、同日、原告と被告酒井、同笠置両名との問に、右山下が雇傭中に原告会社に与えた損害を連帯して保証する旨の身元保証契約を締結した。

(二)  被告山下は右集金業務に従事中別紙目録記載のとおり昭和四〇年一二月二九日頃から昭和四四年一月一八日頃までの間前後三九回にわたり現金合計七五七万九、三〇〇円を集金して保管していたが、その間数一〇回にわたり内金合計金六一〇万三、五四三円を横領した。

右の結果、原告は総額金五二二万三、五〇〇円の損害を受けたが、その後、金二三万九、五〇〇円の内入弁済があつた。右内入弁済金の内容は次のとおりである。

1 昭和四四年二月二七日入金六、三〇〇円、客の火災契約解約分

同年六月九日入金三万円、客の伊藤格一解約分

同年八月九日入金九万円、客の山内勉解約分

同年七月三一日入金三万円、山下二三夫保証金充当分

2 被告山下が他の従業員に貸つけていたものの中から返済されたもの

同年二月二八日入金五万円、小山弘より受入れ

同年四月一四日入金一万円、藤沢進一より受入れ

同日入金二千円、三浦忠文より受入れ

同日入金一万円、平川利夫より受入れ

同月三〇日入金五千円、右同人より受入れ

同年五月二八日入金六、二〇〇円、三浦忠文より受入れ

(三)  よつて、原告は被告らに対し各自右残損害金四九八万四、〇〇〇円およびこれに対する本件訴状送達の翌日から完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

(四)1  本件身元保証契約は期間満了日の昭和四三年五月一日、黙示の承諾により更新され、被告山下が退職する昭和四四年一月二三日まで有効に存続した。

2  本件身元保証契約は、保証の期間を満三ケ年とし右期間満了に際し連帯保証人において保証打切りの意思表示をしない時は同一条件を以て契約を更新する約定であつた。このような特約は、身元保証に関する法律第二条第一項所定の最長期間五年を超えない期限内であれば有効である。したがつて、被告酒井、笠置の両名は昭和四三年五月一日の期間満了に際し保証打切りの意思表示をしなかつたから、原告との右保証契約は被告山下が昭和四四年一月二三日退職するまでの期間更新されたものである。

(五)  被告笠置主張3(イ)、(ロ)の事実は否認する。同4の弁済充当は争う。右金は山下が弁済したものではなく、原告に任せられたものであるから、法定充当すべき性質のものではない。

二、請求原因に対する被告らの認否

(一)  被告山下関係

請求原因第一項は認めるが、その余は否認する。

(二)  被告笠置関係

1 請求原因(一)、(二)項は認める。同(三)、(四)項は争う。

2 本件身元保証契約の存続期間は昭和四〇年五月一日より三年間と約定されており、原告主張のような自動更新の約定は無効であるから、昭和四三年五月一日の経過とともに終了した。したがつて、仮りに、原告主張のような事実があつたとしても、昭和四三年五月二日以降における被告山下の横領金について保証義務はない。

3 右保証期間内における横領金についても、身元保証に関する法律第五条にもとづき、左記事情を斟酌のうえ損害賠償金について相当の減額を求める。

(イ) 被告は妹むこである被告山下から頼まれ、親族間の情義上やむなく身元保証を引受けた。

(ロ) 原告会社の大分営業所長前田春親に部下山下に対する監督上の過失があつた。

4 原告が自認する内入弁済金二三万九、五〇〇円は、損害賠償債務成立の日時の古いものから充当すべきである。すると、前記保証期間中における残債務は金一二万一、三〇〇円にすぎない。

(三)  被告酒井関係

請求原因一項は認めるがその余は否認する。

第三、証拠<省略>

理由

一、身元保証契約の締結について

この点についての原告の請求原因(一)項は当事者間に争いがない。

二、山下が原告会社に与えた損害について

右に関する請求原因(二)項は、原告と被告笠置との間では争いがなく、その余の被告との関係では、公文書であるから真正に成立したと認められる甲第一三号証によつてこれを認めることができる。

三、身元保証契約の更新について

(一)  本件身元保証契約は昭和四〇年五月一日より三年間と約定されていることは、原告と被告笠置との間では争いがなく、被告酒井との間では証人梶田鑑治の証言により成立を認めることのできる甲第九、一〇号証の各一によつて、これを認めることができる。

(二)  原告は、本件身元保証契約は昭和四三年五月一日頃被告ら黙示の承諾により更新されたと主張するが、全証拠をもつてもこれを認めるに足りない。

(三)  前記甲第九、第一〇号証の各一によれば、原告と被告笠置、酒井との間において、昭和四〇年五月一日の保証契約を締結するに当り、三年の期間満了に際し連帯保証人において、保証打切りの意思表示をしないときは同一条件を以つて更新する旨の約定があつた事実を認めることができる。

しかし、このような更新の予約は、使用者から期間満了の直前に改めて通知することにより、更新を拒絶するか否かを判断する機会を与えない限り、身元保証人としては、期間の満了を失念する等の理由で保証打切りの意思表示をする機会を失することもあるので、結局、身元保証人に不利益な特約であるというべく、身元保証に関する法律第六条により無効と解すべきである。

原告は、このような特約でも同法二条第一項所定の最長存続期間五年を超えない期間内では有効であると主張するが、同法第二条第二項、第六条により自動更新が無効となるのは、単に同法第二条第一項所定の存続期間五年を定めた趣旨に反することのみならず、このような特約が前示理由により身元保証人にとつて不利益を与えるからである。そして、この不利益は、更新の効力を最長存続期間である五年内に限り認めた場合でも同様に生ずるのであるから、右原告の主張は採用しがたい。

(四)  右のとおりであるから、本件保証契約は期間の満了により昭和四三年五月一日の経過とともに終了したものといわなければならない。なお、成立に争いがない甲第一二号証によれば、被告笠置は原告に対し昭和四三年一一月一一日を以て保証人を辞退する届出を出していることが認められる。しかし、同被告本人尋問の結果によれば、更新を承諾したうえで同号証を提出したものでないことが認められるので、同号証によつては以上の結論を左右できない。

四、よつて、被告笠置、酒井の両名は、右身元保証契約が存続中の昭和四三年四月三〇日までの間における山下の横領金についてのみ損害賠償の責任があると認められる。前記甲第一三号証によればその合計金額は金三六万八〇〇円である。

五、保証責任の限度について

(イ)  被告笠置本人尋問の結果によれば、被告笠置は妹むこである山下から頼まれ親族としての情義上本件身元保証をするに至つた事実を認めることができるが、この程度ではまだ賠償額を軽減すべき事由とすることは相当でない。

(ロ)  成立に争いがない甲第一四号証の一、二、同第一五号証の二、乙第三号証、証人梶田鑑治の証言を総合すれば、

被告山下は、会社所定の正規のものではなく私製の領収書を発行して集金し、横領金をタライ廻して穴埋を計るなど、巧妙な手口を使つていたため発見が遅れ、同人が金使いが派手で同僚に金を貸すなど、その挙動が職場内でも不審がられるようになつたのは、昭和四三年八月から一〇月以降であつた事実を認めることができる。そこで、同時期以降の横領金については所長の監督上の過失を斟酌すべきであるが、前記保証期間満了の日である昭和四三年五月一日以前における横領金について監督上の過失を斟酌することは相当でない。

六、弁済充当について

請求原因(二)項の内入金は被告山下の弁済によるものではなく、原告の便宜上の操作によるものであることが主張自体により明らかであるから、被告の主張は採用できない。

同2については、被告山下が成立を認めるのでその余の被告らの関係でも真正な成立を認めることのできる甲第一ないし第八号証を総合すれば、被告山下は本件横領金の整理、弁済方を原告会社に一任し、2の貸金についてもその取立ならびに弁済充当方を原告会社に一任したことが認められるので、以上よりみれば、被告側は法定の弁済充当を主張することができないと解すべきである。

七、結論

よつて、原告に対し、被告山下は横領により与えた損害金四九八万四、〇〇〇円、被告笠置、酒井の両名は身元保証人として、各自金三六万八〇〇円および、これに対する本件訴状送達の翌日であること記録上明かな昭和四四年八月二七日より(ただし、山下のみは同月二九日より)各完済に至るまで民事法定年五分の割合による遅延損害金の支払義務があるから、本訴請求は右の限度においてこれを認容し、その余は失当として棄却することとし、民訴法第九二条、第九三条、第一九六条にしたがい、主文のとおり判決する。

(裁判官 高石博良)

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